19 #地域を支える方のインタビュー

誰もが働きやすい施設を目指して

特別養護老人ホーム 梅の香 さん

取材時期
令和5年9月7日

ー多様な人材が活躍する、南相馬市小高区にある特別養護老人ホーム梅の香
 今回はその取り組みについて、施設長の鹿山さん、副施設長の中橋さん、主任介護職員の寺岡さんにお話をお聴きしました。

Chapter.01

ふるさとで暮らしたい方を受け入れるために

 社会福祉法人南相馬福祉会 特別養護老人ホーム梅の香(以下:「梅の香」)は、南相馬市小高区に位置する、介護の必要な高齢の方が入所し生活を送るための施設です。
 事業開始は2004年ですが、2011年の東日本大震災時に全住民が立ち入りのできない警戒区域に指定され、避難指示の解除後に施設の再建を行い、2018年4月1日にようやく再開することができました。
 しかし、避難指示が解除されても働き手世代の帰還率は低く、特に小高区は震災前の3割程度の住民しか戻ってきておらず、年齢構成を見ると65歳以上の方が5割 近くを占めています。
 一方で「梅の香」へ入所を希望している方は200人を超えていますが、職員が集まらず満床は50床のところ30床で運営を行っており、地元に戻って暮らしたいと希望する方がたくさんいるのに、いつまでも満床にできないという現状がありました。
 そんな中、満床で運営できるようにフルタイムで働ける職員だけではなくパートの方・地域の役に立ちたい高齢者など、多様な人材にも目を向けていく必要があると、外国人介護人材の受け入れも決めました。元々、こちらで日本人の方と結婚したフィリピン出身の方が働いていたのも影響したと思います。

Chapter.02

外国人介護人材受入ワーキングチームの立ち上げ

 外国人介護人材の採用は法人全体で行いましたが、その受け入れ方法は各施設に一任されていました。
 管理職が「こういう風にやってね」と言っても実際に対応するのは現場の職員なので、どうすれば新しく来る外国人の方たちが働きやすくなるか、そして自分たちも働きやすくなる職場作りを考えてもらうために「梅の香」では、外国人介護人材受入ワーキングチームを立ち上げることにしました。
 メンバーも介護職員だけでなく生活相談員や看護職員などいろいろな職種で構成し、地元ではない方の意見も取り入れるために県外から来た職員にも入ってもらいました。
 第1回目の会議は、ワーキングチームの目的を明確にするところからのスタートでした。今回はミャンマーの2人を就労目的で外国人を受け入れる在留資格である特定技能1号で採用しました。技術を教えて国に戻ってもらう技能実習生ではなく働き手として人が欲しいということをチーム内で共有し、働きやすい職場作りのために取り組みを考えていくということを話し合いました。

Chapter.03

介護技術より日本の生活習慣の方が難しい?

 はじめに、受け入れるミャンマーの方たちを職員それぞれが理解するところから取り組みました。
 隣県に住んでいるミャンマーの方をお招きして、国のことや国民性などの勉強会を法人全体で開いたり、メンバーがそれぞれ調べてきて仏教徒が多いことや、主食はお米を食べているなど、日本の文化と共通することが多いことをみんなで学んでいきました。
 また、「国旗はどれ?」などといったミャンマーに関するクイズや、誰にでも伝わりやすい「やさしい日本語」クイズをバックヤードに貼りだすなど、職員全員にミャンマーを身近に感じてもらおうと工夫しました。
 次に、実際の業務場面においては、物品の表示方法やご利用者の名前や部屋の配置、食事の配膳などをどのように覚えてもらうかについて取り組みました。
 まず、物品や帳票関係には全てルビを振ることにしました。ルビはカタカナというイメージがあったのですが、ひらがなの方が理解できるということがわかり、全てひらがなでルビを振りました。
 それから、ご利用者の顔と名前が一致するように顔写真と名前、部屋の場所などを一覧にしたものをファイリングし、いつでも確認できるようにしました。
 また、ご利用者の食事はお一人お一人の状態によって量や柔らかさなどが決められているので、配膳の際にそれがわかるように、トレーに「はんぶん」や「ミキサー」など表示し、どのご利用者にどんなものをどのくらい配膳すればいいかわかるようにもしました。
 ただ施設に来てくれたミャンマーの2人は自国で介護の勉強をしっかりしてきており、介護の方法についてはすぐに覚えてくれたので、むしろ日本での生活のルールを覚えてもらうことに時間をかけました。
 例えば、ミャンマーには小銭がないので、小銭の使い方や買い物の仕方から始まり、横断歩道の渡り方、救急車の呼び方、病院のかかり方など生活に必要な知識や、空き地に咲いている花などは勝手にとってはいけないといった、ミャンマーでは大丈夫だったことも日本では犯罪になることなど、1か月間時間をかけて覚えてもらいました。
 日本のルールで大変なのはゴミの分別で、来日したばかりの頃は「日本人はルールに厳しいです」とよく話をしていました。

Chapter.04

職員全体に良い影響が出ています!

 ワーキングチームの立ち上げから1年半ほど経ち、今施設として感じることは、ミャンマーから来た2人が本当に真面目に働いてくれるので、「梅の香」の雰囲気も変わったということです。始めは外国人介護人材の受け入れに懐疑的だった職員も、「彼らなら任せられるよね」という評価になり、彼らが頑張っているから自分たちも頑張っていこうといったモチベーションアップにつながっています。
 また、物品の表示方法やご利用者の名前や部屋の配置、配膳など外国人介護人材の方のために用意したものが、結果的には他の職員にも分かりやすい仕組みになっていると思います。
 ワーキングチームの取組後に就職した門馬さんは、「元々、南相馬市内の旅館で働いてました。コロナ禍の中で、やりがいがあって長く続けていける職業は何かなって考えた時、旅館に来るおじいちゃんおばあちゃんに携わることが多かったので、介護の仕事を選びました。畑違いの業界で不安な部分もありましたが、専門用語などわからないところもひらがな表記になっていたので私自身も助かりました」と話されていました。
 ミャンマーから来たチョウさんは、「私はご利用者と関わる時に幸せになってほしいと思って働いているし、そうすると自分も幸せな気持ちになれる」と話してくれました。
 「梅の香」では、外国人介護人材受入の他にも介護職員の負担軽減のためのICTや介護ロボットなどの導入を進めていますが、それを利用する職員の考え方などが育っていないとせっかくのものも無駄になってしまいます。いろんな価値観の職員が集まる中で、職員が成長できて1つの目標に向かって進んでいけるような施設がつくれたらいいと思っています。
 職員が安心して働ける施設を作って、ご利用者も安心して暮らしてもらいたい。そして地域の人や学校、次の世代にも介護の魅力や、昔の3Kといわれていた時代から変わりましたよということを実感してもらえるような施設づくりをしていきたいです。
 その一方で、ミャンマーから来た2人は、まだ若いのでいろんなことに興味があって、お金をためて介護以外の仕事をすることも視野に入っているのかもしれません。でも「梅の香」での経験で介護の仕事を好きになり、長く続けてくれたらうれしいと思っています。
 
 

あとがき

記事には入れられませんでしたが、ミャンマーの2人は始め「仰臥位」という言葉は理解できても、「横になる」という言葉がわからなかったというお話にびっくりしました。ちなみに、読み方は「ぎょうがい」で「仰向けに横たわる」という意味です。施設側の取り組みはもちろんですが、2人がミャンマーで介護をしっかり学んできたこと、慣れない環境でしっかり働いていることに感銘を受けました。(担当:橋本)